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大阪の名料亭『味吉兆』と、平安時代創建の高野山『清浄心院』がコラボレーションした精進料理会。これまでの第一回、第二回の精進料理会に続き、今回で第三回目を迎え、令和6年4月7日、8日の2日間開催されました。
弘法大師・空海が1200年前に開いた高野山。日本文化の真髄が今も生きている高野山という聖地で、日本料理の伝統を『精進料理』で表現するという料理会。『味吉兆』中谷隆亮・主人が、高野山の文化に合う地元の食材を使用して考案した、高野山の「春」を彩る特別な精進料理をいただきます。
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今回は一の膳から三の膳までの、いわゆる精進懐石料理。春らしい苦味が身体に沁みいる花山葵やうるいなどの山菜のお浸し、旬のタケノコと天然ワカメ、蓮根いとこ煮などの焚き合わせなど。季節を感じられる野菜を味わいます。
また、春若芋と胡麻クリーム、蓮根餅と揚豆腐の吸物、大豆、豆腐、紫蘇の春巻きなど、精進料理では不足しがちなポーション面の満足感も十分に堪能。そして、春といえどもまだ肌寒い高野山山上で、温かいクレソン鍋が心身を癒してくれました。
第一回、第二回では高野山麓や高野山周辺の、魅力ある食材や伝統加工品を探す視察会に出かけましたが、今回もほとんどの料理にその視察会で出会った食材、加工品が用いられていました。2日間で全4回の料理会は、今回も満員御礼。すべての回で中谷隆亮・主人による挨拶もあり、第三回の料理会も盛況のうちに幕を閉じました。
今回の料理会で提供された精進料理を、『味吉兆』中谷隆亮・主人が解説してくださいました。
一の膳
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先付 春若芋とゴマクリーム アーモンド添え
春若芋は長芋の別名です。この春若芋を少し味付けして炊いたものを素揚げにしました。春若芋には胡麻クリームをかけていただきます。アクセントのアーモンドが胡麻の風味とよく合います。
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お浸し 花山葵 うるい 山菜
サッとゆがいて素材の旨みを活かした、うるいと花山葵、山菜のお浸し。春を感じさせる苦味が身体に優しく、美容やデトックスにも最適。春にしかお出しできないお料理です。
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焼物 麩照り焼き
生麩の照り焼きは今までの精進料理会で評判が良く、清浄心院の定番料理にさせていただいています。生麩をさっと油で焼き、醤油と砂糖の甘いタレで絡めています。
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甘味 干柿 白餡
和歌山といえば柿の名産地。しかし今の季節は柿がないため、干柿に餡子を挟んでデザートにしました。食感がとても合いますので、ぜひ召し上がってみてください。
二の膳
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吸物 蓮根餅 揚豆腐
蓮根餅は蓮根をすり下ろして搾り、油で揚げています。油を使うと旨みが増すんです。豆腐は高野山の堀畑さん親子が製造されている堀畑豆腐店のお豆腐を使用しています。
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揚物 大豆、豆腐、紫蘇の春巻き
動物性のものが使用できないため、植物性タンパク質をしっかり召し上がっていただくために考案しました。お豆腐をギュッと絞り、つなぎとして擦った山芋と刻んだ紫蘇を入れ、大豆を混ぜて春巻きに仕立てています。
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焚合 筍 若布 蓮根いとこ煮
和歌山・加太の天然ワカメと地元の筍、そして蓮根のいとこ煮です。昔、蓮根は蓮池の畑で採れ、小豆はあぜ道に植えて収穫したそうです。同じエリアで収穫するということで「いとこ煮」です。
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ご飯 うすい豆
春らしい旬の和歌山県産うすい豆を使用した豆ごはんです。精進料理はどうしても出汁が昆布出汁になるため、旨みをプラスするためにお揚げをアクセントとして入れています。
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香の物
キュウリと白菜、そして筍の根っこの部分を佃煮にしたものです。素材を余すとこなく大事に使うため、筍のふだん固くて食べられないところを刻んで佃煮にしています。
三の膳
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鍋 クレソン鍋
山菜鍋からヒントを得た定番のクレソン鍋。つぼい農園の高野クレソン、豆腐は角濱の胡麻豆腐を使用しています。精進ではとりにくいタンパク質を増やすため、湯葉や利休麩、くるま麩を合わせています。
高野山に縁をいただき、大阪からスタッフたちと車で山を登ってくるのですが、毎回、山上に来ると空気が違うことに驚きます。心が清められているような気持ちになるのです。外国人の方も多く、皆さんが遠くから時間をかけていらっしゃるのもわかる気がします。
高野山は自然が豊かですのでお水もおいしいですし、素材もいいです。今まで何度か地元の生産者さんとお会いしていますが、いつも素材の力の大きさを感じています。たとえば金山寺味噌は一度途絶えた伝統を、復活させてきた方々のおかげで今もいただくことができます。そういう方々と一つのチームとしておいしい料理を作り上げることができるのは嬉しいですね。
素材が良いものをお料理に活かしきるのが私たちの使命だと感じていますので、そのために自分を絶えず磨き、アンテナが錆びないように光らせておかないといけないと考えています。
精進料理の難しいところはやはり、カツオなど動物系の旨みを使えないわけですから、それでも美味しく召し上がっていただくためにとても気を使っています。特にお吸い物はお出汁が昆布ですので、椀種とのバランスをどうするか苦労しますね。
また、大阪などの都市部と比べ、高野山は寒く、どうしても時期がずれますので、鍋などできるだけ温かいものを召し上がっていただけるようにしています。
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中谷隆亮(なかたにりゅうすけ)
『味吉兆』代表取締役。高級料亭『吉兆』の創業者・湯木貞一氏から暖簾分けを許可された『味吉兆』初代・中谷文雄が実父。大学卒業後は『東京吉兆』で3年間修業した後、先代の元で研鑽を積みながら二代目に就任。先代が『吉兆』から受け継いだ“世界へ誇る日本の食文化”を守り、国内外へ普及させていくため尽力している。現在、大阪市内にて『味吉兆 ぶんぶ庵』『味吉兆 堀江店』を経営。二店舗とも長年ミシュランガイドで星を獲得し続けている。
取材・文/藤田ベリー
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