池口恵観住職2023年夏インタビュー 「高野山のお盆」について 

毎年7月と8月、清浄心院で盛大に行われる盂蘭盆護摩供養。一般の人にはあまり知られていない「高野山のお盆」の意味について、池口恵観住職がわかりやすく説明してくださいました。

 高野山・奥之院は弘法大師・空海(お大師さん)がご入定され、お祈りを続けられている場所。奥之院には大師を慕う日本を代表する宗教家、権力者たちをはじめ、一般庶民も眠る場所としてたくさんのお墓や供養塔があり、日々参拝に訪れる方が後を断ちません。
 特にお盆の時期は、高野山に先祖のお墓がある方々も大勢奥之院にお墓参りに訪れます。この奥之院に一番近い清浄心院では、7月と8月に毎年恒例の盂蘭盆護摩供養が盛大に行われますが、今回のインタビューではこの「高野山のお盆」が持つ意味について、池口住職にお話をお伺いしました。

取材・文/藤田ベリー

先祖たちにとっても、高野山で供養されることは幸せ

——高野山で先祖供養をされる方が多いのはなぜですか?

お釈迦さまがご入滅されて56億7000万年後、お大師さまが弥勒菩薩とともに現れて世の中を救うという信仰がありますが、その場所の一つが奥之院です。高野山でお大師さまの元で救われる、成仏するために、その時代の有力者はじめ、20万基のお墓があるわけです。高野山でご供養したらみんな成仏できますし、亡くなった人たちも成仏できるという気持ちがあったと思うんです。だから、全国からいろいろな人が集まり、石を担いで高野山へ登ったのでしょう。高野山でご供養するというのは特別な意味があると思います。

——高野山は先祖供養に特別な場所なんですね。

先祖たちにとっても、高野山で供養されることは幸せです。日々、お祈りを捧げられている高野山なら、早く成仏できるし、光輝く高い存在になれるからです。その存在になれば、人を救うことができるようになれます。早く成仏し、家門繁栄のために尽くせる。そして、家族や子孫だけでなく、地域のために。やがては日本国や世界中を守れるような仏さんになってほしいと願っています。

大宇宙・大日如来と一体となり、みんなを守る

——住職は「成仏」の意味をどうお考えになりますか?

「成仏」とはこの大宇宙の神々と一体になることだと思います。魂は上の段階に上がり、光り輝く。そして、高野山のお大師さまや仏さまとともに、皆んな(家族や地域、やがては日本国や世界中)の子孫たちを守るという信仰につながると思います。
 最初は自分が仏になりたい、仏と接点を持ちたいと考えられている方も、段階が上がっていけば宇宙の大生命体=大日如来と一体となり、日本国や世界中を守れるような仏さんとなって、皆を守っていただけるんじゃないかと。そう信じています。


——私たちの未来のためにも、先祖供養は必要ということでしょうか?

 すべてのものには“根”があり、幹があり、やがて花を咲かせて実を実らせます。私たちは親から遡る、先祖の“根っこ”がきちっとあるからこそ栄養を吸って大木となり、花を咲かせ、実を実らせることができるわけです。その近道が高野山にお参りすることだと思いますし、先祖を供養することだと思うのです。
 人は肉体はなくなっても魂は永遠に生きていくわけですから、肉体に宿っていた“魂”はお墓やお位牌に宿ります。ただ、余っている土地が少ない高野山にお墓をつくることは難しいので、清浄心院では「永山帰堂」という位牌堂を作り、お位牌をお祀りし、毎日拝んでいるわけです。また年に1回、高野山のお坊さんが数十人が集まっていただいて、皆んなでご供養していただくこともあります。


——檀家でなくても、高野山で先祖供養できるものなのでしょうか?

はい。高野山というと、手の届かない場所と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、清浄心院ではどなたでも位牌をお祀りできます。ですので、それを知った方が喜んで、家族中の位牌を持って来られたりする方もいらっしゃいました。また、高野山にお祀りすれば、お参りに来た人たちも自然豊かな高野山で寛ぎながら拝むことができる。これも素晴らしいことです。

「鳳凰奏殿」にて、池口恵観住職。
池口恵観住職
「永山帰堂」では年に1回、高野山の僧侶たち数十人が祈りを捧げる。

清浄心院には本堂や灌頂堂など、通常の高野山のお寺施設とは別に、令和元年に落慶された護摩行を修する「鳳凰奏殿」と、位牌堂の「永山帰堂」があります。この「永山帰堂」では、宗派関係なく、檀家でなくても、どなたでも位牌をお祀りしているそうです(故人位牌と生前位牌)。詳しくは清浄心院までご連絡ください。また、7月13日から16日、8月13日から16日のお盆の時期に、清浄心院では先祖供養のための「盂蘭盆護摩供養」を行います。ご興味ある方は下記からお申し込みできますので、ご覧ください。

池口恵観住職
高野山別格本山清浄心院住職。高野山真言宗宿老・大僧正。傳燈大阿闍梨。
昭和11年11月15日、鹿児島県生まれ。高野山大学文学部密教学科卒業後、昭和48年烏帽子山最福寺法主に就任。昭和63年高野山真言宗傳燈大阿闍梨、平成18年高野山真言宗大僧正。また、北海道大学、山口大学、岡山大学、京都府立医科大学、兵庫医科大学、高野山大学などで客員教授など、広島大学、金沢大学などで非常勤講師を務め、医学博士でもある。平成元年に仏教史上初の百万枚護摩行を成満する。

藤田ベリー
編集者・文筆家。高野山ガイドブックをはじめ、15年ほど前から雑誌・書籍等で高野山取材を重ねる。この1年間、清浄心院の各行事を取材中。オーガニック食品や農業などの分野にも精通。