春の寺宝 特別展 会期4/1~6/30
清浄心院・高野山文化歴史研究所にて当院の文化財の調査・研究の中で発見された宝物を順次公開する特別展です。
【会期】令和4年4月1日~6月30日迄
【時間】①11時~ ②12時30分~ ③16時~
【拝観料】護摩木1本(1,000円)
【予約】0736-56-2006
【拝観方法】ご予約のお時間までに清浄心院受付に集合ください。お時間になりましたらスタッフが、客殿・霊牌堂(阿弥陀如来像/運慶作・重要文化財)・大台所・囲炉裏の間(寺宝展会場)を順番にご案内いたします。
『性霊集』高野版(鎌倉時代)
令和3年12月、清浄心院・高野山文化歴史研究所が清浄心院の蔵で発見した「遍照発揮性霊集」。性霊集(しょうりょうしゅう)とは、空海の弟子の真済(しんぜい)が、師匠である空海の詩文・碑銘・書簡・表白などを集めたもの。全10巻で、空海が入定した承和(じょうわ)2年(835)頃に成立。後に8・9・10巻が散逸したために、承暦(じょうりゃく)3年(1079)済暹(さいせん)が手を尽くして空海の遺稿47章を拾集して補い、巻数を旧に復した。
清浄心院から発見された性霊集は、鎌倉時代中頃の建治(けんじ)3年の高野山で刊行された高野版(こうやばん)で、4・6・7・9の各巻。印刷された文字は鮮明で、紙質も鎌倉時代中頃の高野山麓で漉かれた高野紙(こうやがみ)であり、建治3年の印行された当時のものと推定される。装丁は巻物仕立ての巻子本(かんすぼん)となっている。高野版は通常は冊子で装丁される中で、珍しい装丁である。
後世になり、文中に付けられた訓点は刊行から7年後の弘安(こうあん)7年(1284)に「桂亜相禅門(かつらあしょうぜんもん)」の手による成ったもの。これまで性霊集の訓点については、聖範・剣覚・観覚・桂亜相禅門の4名の合作によるものは知られていたが、桂亜相禅門の単独の訓点は初めての発見であり貴重。桂亜相禅門の実名は未詳であるが、「亜相」とは大納言(だいなごん)別称で、「禅門」とあることにより出家者で、「桂」とは地名を示すものとすると、晩年に出家して京都の桂の里に退隠した桂大納言と称された平安時代末期の上級貴族の藤原光頼(ふじわらのみつより:1124~1173)と推定される。
清浄心院の性霊集の訓点が書写された場所は、奈良の西大寺(さいだいじ)の塔頭寺院の常施院(じょうせいん)で、正応(しょうおう)元年(1288)のことと明記する。常施院は忍性(にんしょう:1217~1303)が病人を救うために創建した寺院として知られているが、清浄心院の性霊集のテキストなる元本が同院にあったことが指摘される。
忍性は鎌倉幕府の執権北条時頼(ときより)らの招きにより奈良から鎌倉に赴き、同地で極楽寺を開いて、貧民やハンセン病患者など社会的弱者の救済等の社会事業を行った高僧であった。文永(ぶんえい)6年(1269)には江ノ島で祈雨の法を修めたことでも知られている。
解説 木下浩良(清浄心院・高野山文化歴史研究所 所長)